2007年08月24日

かけがえのない時間を封印「天然コケッコー」

しかし山下敦弘はよくやった。渡辺あやの書いた天然コケッコーの脚本を手渡され「はい、これを演出してください」と言われたら、俺だったら途方に暮れるな。


だってそれくらい事件もない、大きな出来事もない、平凡な日常が淡々と続いていくだけの脚本だよ。


でも山下敦弘はこの天然コケッコーを素晴らしい映画にした。見事というほかない。


まとめた文章にするのがめんどくさいので印象に残ったことを箇条書きにするけど、


そよ(夏帆)が好きになる大沢くん(岡田将生)はリアルだったと思う。原作者が女性の方だと(原作が少女漫画だと)どうしても男の描き方に違和感があるものだけど(いわゆる王子様キャラ)


この大沢はイケメンとはいえ中学生らしいバカっぽさと傲慢さがちらほら見え隠れする等身大の男の子。


友人と誰が先にキスをするか賭けているところやプロレス好きのところなんて中二病臭くて、全然王子様キャラじゃないところがいい。


あとこれは特筆したいんだけど、キスシーンの素晴らしさったらないね!


いままで映画は1000本以上観てるけど、この映画のキスシーンほど素晴らしいと思った映画はなかった。


観てもらえばわかるけど、キスシーンでの夏帆は傑作だねw可愛いやらおかしいやら甘酸っぱいやら・・・まあ見事なキスシーンだから観にいってやってください。


この映画は子供たちの映画なので、大人たちは背景程度にしか描かれていないけど、でもキラリとするどく光る背景になってます。


父(佐藤浩市)の浮気を疑い動揺するそよだが、母(夏川結衣)はあっさりこう言う。


「お父ちゃんの愛はわしには重すぎるけ、たまにはええよ」


このセリフにはしびれたね。なんというか全女性必聴って感じ(笑)


あと大沢くんのお母さんもよかった。わけありで田舎に帰ってきたんだけど、あきらかに田舎にそぐわない“メスのにおい”をプンプンさせていてトラブルの香り全開。そよがはじめてみる大人の女性・・という描写がよかった。


この映画って先に言ったようになにも劇的な事件など起こらないので、映画を見慣れてない人にとっては感動ポイントがよくわからないと思うんだけど、


俺なんか精神的に弱ってるのか、なんでもないシーンにいちいち涙ぐんだりしてバカみたいなことになってる。


そよと大沢、ふたりで合格発表を観にいくために電車の座席でしっかり手をつないでるシーンを観ただけで、なんか涙がでてくる・・・。


なにげないシーンにきらめくばかりの映画的瞬間がふいに姿をあらわすのに動揺して泣いてしまうんだ・・・


山下敦弘は映画の神に愛されてるよ。


エンドロールでは東京の高校に行くといっていた大沢が丸刈り姿になっているのがちらりとうつされ、これからもそよと大沢の田舎での生活が続くことを示唆され幸福な気分になるが、


その幸福さえもいつまで続くかわからないとそよは悟っている。だからそよはラスト教室の黒板にキスをして、このかけがえのない時間を永遠のものにして封印する。


うる星やつらビューティフルドリーマーのように幸福な時間は永遠には続かない、でも思い出の中なら永遠に生き続ける。黒板へのキスはそういうことだと思った。


そして映画はそのかけがえのない時間を封印するのに最も適した芸術だ。


posted by シンジ at 09:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画批評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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