2011年08月21日

卑劣か卑小か・日々の雑記。

テーマを決めず日々考えたことをつらつら書く。

トルストイ「要約福音書」のなかで最も感情移入したのはピラトだ。そのあまりにも人間的な卑小さ。ピラトのイエスを殺したくない、でもユダヤ正教徒の圧力も怖い。俺どうしたらいいんだよ〜という泣き言があまりにも人間的で、そこに自分と同じ卑小さを見る。イエスは立派すぎて感動するというよりは、理解できないという思いが強い。

ー卑小という言葉で思い出したが、小林信彦が「仁義なき戦い」の山守組長(金子信雄)を形容して「卑劣」と言ったとき、笠原和夫に「卑劣と言っちゃいけない」とたしなめられたという。(「仁義なき戦い」スクラップブックより)

これを私なりに解釈すると、卑劣というとそこには私とは断絶した、何か別の生き物、理解不能の存在という意味合いがあるが、卑小であるとは、私と同じ人間、私と変わらぬ存在だという意味合いがあるように思われる。

つまりピラトや山守は卑劣ー理解不能の存在ではなく、私とまったく変わらぬ同じ存在、卑小な存在。私の似姿である、ということではないだろうか。

なんでトルストイの「要約福音書」を読んだのかというと、ウィトゲンシュタインの愛読書だから。ウィトゲンシュタインは第一次大戦、最前線で戦うことを自ら志願し、死の危険にさらされるなかでトルストイの「要約福音書」をむさぼり読んだ。(1万人いた兵士の中で生き残ったのはウィトゲンシュタインを含めた3千人程度だったという)

要約福音書のなかにウィトゲンシュタインの信仰と思考の秘密があると思ったのだ。要約福音書はトルストイの解釈した福音書ー体制側であるユダヤ正教徒と戦う反体制のヒーローとしてのイエスの姿が描かれている。しかし結局信仰とは何たるかはよくわからなかった。

なぜウィトゲンシュタインの信仰に興味を持つかというと、ウィトゲンシュタインの信仰と思想は切っても切り離せないものだと思うからだ。信仰と言語ゲームの関係については、さらっと「バウドリーノ、エレクション、言語ゲーム」に書いた。

なぜ私は要約福音書を読んでも理解できなかったのか。それは信仰を正当化するものは何か、と考えていたからだ。信仰とは確信であって信念ではない。ーそこにウィトゲンシュタイン思想の根幹がある。

「神を信じることは生に意味があることを見てとることである」ーウィトゲンシュタイン戦場でのノートより

「神を信じる」ことを蝶番(確信)にした言語ゲームの世界こそ、意味のある世界とウィトゲンシュタインは言うのだ。


もうひとつ小林信彦の話題。「映画を夢みて」を読んでいると黒澤明の「天国と地獄」についてこんなことが書かれている。

「天国と地獄」〜これがつらいのは、ラストで対決するのが、三船と山崎努であることだと思った。シムノンの愛読者である黒澤が「男の首」を意識してないはずはなく、これは当然、マニアックな仲代の警部と山崎犯人の心理的対決で終わるべきドラマなのに、大スター三船が出ざるをえなかった。ー小林信彦

なるほどとは思うが、あのラストは天と地にいたものが、同じ地平に立って向き合うというところに意味があるので、あれはあれでテーマにそった感銘深いラストであると思う。「天国と地獄」とシムノン「男の首」はプロット的にはまるで関連はないが、奇妙な知能犯とメグレとの対決、そして犯人が絞首台に向かう直前までメグレと言葉を交わすラストの異様な余韻は「天国と地獄」のラストの余韻とつながるものがある。つまり最初は理解できなかった自分とは断絶した卑劣な存在が同じ地平に立った途端、自分と同じ卑小な存在だったと理解するのだ。


映画「Super 8」について。

この映画での8ミリ映画、謎の宇宙人、悪辣な軍部などなどのガジェットは、すべてある一つのことに奉仕するために存在する。

昔聞いた恋愛作法で、好きな女の子とデートするときはジェットコースターに乗ればよい、というのがあった。つまりジェットコースターに乗ったときのドキドキは恋したときのドキドキと似ているので、女の子はそれを恋と錯覚するという(笑)

このスーパー8はまさにそれ!冒頭の列車破壊シーンも、なにやら怪しい軍も、得体の知れない怪生物も、すべてが少年と少女の初恋を盛り上げるためのドキドキを提供するジェットコースター的ガジェットなのである。

@8ミリ映画は二人の出会いを取り持ち(少女がゾンビを演じるシーンはこの10年のベストシーンといってよい。首筋につくキスマーク!最高!)

A仲の悪い親同士は、ロミオとジュリエットのように二人の間に障害を設け、よりいっそう二人の恋を燃え上がらせ

B怪しい軍に、謎の宇宙生物は、お姫様を守る騎士の役割を男の子に与える

世界のすべてが二人の恋をお膳立てする小道具であること。まさに初恋映画の鏡。大好き。
posted by シンジ at 17:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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