2010年09月04日

伊藤大輔「斬人斬馬剣」について

伊藤大輔「斬人斬馬剣」(1929)を見た。

わずか20分ほどの断片にもかかわらず(オリジナルは120分程度)映画としてちゃんとスジが通るものになっていて、その面白さがはっきりと伝わるのに驚いた。いや、面白さが伝わるだけではきちんと言いあらわしてはいないな。映画として大傑作だと断言できる。ここでは20分版の斬人斬馬剣を出来る限り再現してメモする。

十時来三郎(月形龍之介)と相棒の左源太(天野刃一)は村人たちを苦しめる城代・大須賀(関操)と代官・山室(市川伝之助)の配下の奸臣たちを次々と襲っては血祭りに上げる。それに対抗して腕利きの浪人たちを集めて十時を襲わせる代官。だが、十時は襲ってくる刺客たちを軽くいなすと彼らを説得しはじめる。

十時「おまえはなぜ俺を斬ろうとする?」

浪人「食うためだ」

十時「その食う米は誰が作っている?」

悪政により百姓たちを苦しめている悪代官の手下であることを恥じる浪人たちを次々に説得し仲間に引き入れ白馬隊を結成する十時。

悪代官の暴虐は日増しにひどくなり、男たちを奴隷として連行するばかりでなく、ついには女たちまでもなぐさみものとして拉致していく。

これを助けに行くのが十時たちの味方になっていた城代の息子、頼母(石井貫治)。最初は頼母をスパイではないかと疑っていた十時たちだったが、頼母は代官の屋敷に押し入り女たちを救出する。

女たちを助けたものの、夫と子供を斬り殺され、拉致された女は気が狂い、子供ではないものを子供だと思い、それを抱きながらいつまでも子守歌を歌うのだった・・・・

もはや村人たちの怒りは頂点に達し、暴動寸前までになるが、代官の鉄砲隊の前では何も出来ない。

十時は城代とお杉の方(伊藤みはる)の謀略によって暗殺されるところだった世継ぎの松若丸(伊久田太郎)を救い出す。

頼母は悪政の元凶である実の父の城代とお杉の方を誅殺し、その首を家老に差し出し公正なる裁きを求める。

十時は白馬隊を率い、代官を襲撃する。馬で逃げる代官を追いかける凄まじい追跡シーン。十時は見事代官を仕留め、処刑されようと磔にかけられていた村人をすんでの所で助け出した。

見事一件落着し、百姓たちは喜々として何艘にもわたって曳き船の帆をあげてつらなっていく。頼母は世継ぎ松若丸のかたわらに仕えている。松若丸は頼母にたずねる。「十時の姿が見えぬが・・・」

平和が戻った村をひっそりと去る十時と左源太。左源太はなぜこそこそ出ていくのだ?と聞くと十時は「神様みたいに祭り上げられるのはかなわない」という。

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とにかく唐沢弘光のカメラが尋常じゃない。何が凄いって、パンが尋常じゃない。パンっていうのはご存じ撮影技法のPANでカメラを被写体を追って左右に振ること。そんなごく普通の技法がなんで尋常でないのか?いや、俺だってわかんないよ。なんでこんなありふれた撮影技法にドキッ!とするのか。

代官の暴虐に耐えかねた村人たち、その群衆シーンの迫力(こんな迫力のあるモブシーンは見たことがない)鉄砲隊が来たと知らせに来る村人が群衆の中を突っ切って行くシーンを右から左へパンするだけでなんでこんなに胸がざわつくのか?

クライマックス、馬で逃げる悪代官を追う月形龍之介(月形が上半身裸で槍を振りかざして馬で駆けるんだけど、これがまた何とも見事な肉体美!全く無駄のない鋼のような筋肉)このチェイスシーンのど迫力、スピード感もこれまた見たことがない凄さ。右から左へカメラをパンするだけでなんでこんなに興奮してしまうのか!

凄まじい勢いで右から左へ何度となく振られるカメラ、これ以上のものはないと断言できる馬上シーンの移動撮影での暴力的なまでのスピード感。そして極めつけ、画面下から上へ猛スピードで走る馬を俯瞰でとらえたショットにノックアウト。

画面下から唐突に出現する馬を絶妙なタイミングでとらえ、パンアップするカメラの挙動を例えるなら、加速装置を使う009・・・いや、「グンッ!!」と目の前に馬が急激あらわれる感覚ははじめて「アバター3D」を見たときの感覚かそれ以上の衝撃がある。(マジで)

比較したら怒られるかもしれないけど、モブシーンであるとか、馬と馬との追跡シーンで思い出すのは黒澤明の「隠し砦の三悪人」(1958)だけど、言っちゃあ悪いけど「斬人斬馬剣」とくらべると隠し砦は子供だましでしかない。見ればわかる。

パンのスピードが、百姓たちや十時の怒り、人間の爆発する情念を乗せて走るんだからその興奮たるや尋常ではないのだ。

しかし20分の断片版でここまで興奮するんだから、120分のオリジナル版はどんだけ凄い作品なんだ・・・・。これ完全版が存在してたら本当に「世界の伊藤大輔」になってたと思う。

カメラマンの唐沢弘光の革新性についてはTwitterで以前書いたので、ここに再掲載します。

伊藤大輔と組んで数々の傑作を撮った唐沢弘光カメラマンのアイモ使いっぷりは凄まじく「続大岡政談魔像篇第一」1930で生首が障子を突き破り投げ込まれる場面では天井にアイモをひもでつり下げ、そのままアイモを落下させ生首をアップで撮ったりしていた。

唐沢弘光はキャメラ本体へ望遠レンズを装着し、キャメラの左側にワイドレンズのアイモをガムテープで装着。右手で望遠レンズのキャメラのクランクを廻しながら同時に左手でアイモの自動回転を操作していた。ー伊藤大輔

当時のアイモってこれかな
121109707.jpg

posted by シンジ at 17:27| Comment(1) | TrackBack(0) | 映画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
去年、衛星劇場で放送してましたね(^o^)
私の家では入ってないので見れなかったですが。。。
最近ずっと白黒のサイレント映画に興味があり、衛星劇場の番組紹介で斬人斬馬剣をチラッと見てから物凄く興味を持ち、ネットで色々調べているとこのブログに辿り着きました。

いつか絶対私も見たいと思います。映画の詳しい解説ありがとうございました。とても参考になりました(^o^)

最近賞を取った、アーティストも気になります。

どちらも早くテレビで放送しないかな〜
Posted by チョコ at 2012年05月16日 23:25
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