2010年08月18日

蓮實重彦・青山真治・黒沢清が語る「アウトレイジ」

真夜中 NO.10 映画長話より「アウトレイジ」評のみ抜粋。

黒沢清・カンヌで最初に見たのは北野武?

青山真治・はい、カンヌに入った翌日が「アウトレイジ」の公式上映で、そこで見せていただきました。いやぁ凄まじかったですよ。一切感動してないのが見え見えの拍手がわーっと湧いて。

蓮實重彦・たいへんな覚悟をもって撮られた映画でしたね。

青山・誰の共感も不要、という覚悟。その意味で非常に清々しい映画です。

蓮實・自分にも媚びてないのが凄い。作品の徹底した無感動ぶりが心に触れました。

青山・見ながらへんてこりんな映画だと思っていましたけど、余計な媚びがないので、もしかしたら現時点で最高傑作となるのではないかと。

黒沢・僕はまだ拝見してないんですが、あまりの暴力にカンヌも賛否両論みたいに言われてますね。

青山・暴力描写のアンソロジーみたいな側面もあるにはあります。どこかで見たことあるっていう技が羅列されてる。それとともに誰の共感も得られないのはなぜかと言うと、一つには台詞の最後は「このやろう」(笑)字幕ではつねに「ass hole」。いっそこっちをタイトルにしちゃえば、と思うくらい。しかし、その単調さが進むにつれてだんだん小津みたいに聞こえてくるんですね。台詞限定で暴力映画で小津をやるとこうなる、みたいな。

黒沢・暴力をふるう理由は説明されているんですか。

青山・無意味な暴力はないんです。なにしろ暴力の行使による権力奪取ゲームがすべてですから。実は誰も求めてないのにゲームだけが進行していく。

蓮實・そして役者がみんな素晴らしい。

青山・北野監督がいるとみんなちゃんとするんだ、と思いました(笑)ほら見ろ、日本の役者は素晴らしいんだって言いたくなりましたよ。椎名桔平のあれほどいいのも久方ぶりです。カンヌで見た日本女子たちはみんな椎名桔平に目がハートマークでした。個人的には三浦友和が・・・・・。

蓮實・いやぁ、三浦友和が素晴らしい。うまいとか下手とかじゃなく。

青山・妙なところにいて、この人何をしようとしてるの?っていう顔なんですけど、ずっとそれでひっぱる。何もしてないのに座りが悪くて変に怖い。

蓮實・車のガラスが下りてみんながハッとする。あの時の三浦友和の顔。なんにもしてないんですけどね。加瀬亮の鮮明なイメージにも驚かされました。

青山・それと北野さんの芝居というか動作は、あの年齢の俳優さんであれだけ動ける人はいないだろうと思わされるものでしたね。あの殺気のたてかた。いきなり殴るとか、ドキッとさせられました。「その男凶暴につき」(1989)から二十年くらいたつけど、何も変わってない。

黒沢・そうか、傑作なんだ。マスコミの情報だけではわかりませんでしたね。

蓮實・誰も面白かったとは言っていません。フランスでもほとんど否定的な評価で映画祭に出回っている恒例の星取評でも「カイエ・デュ・シネマ」と「レザンロック Les Inrocks」の批評家だけが比較的いい点をつけていた。

青山・求められてないものをあえて出した、という感じです。直前に勲章なんかもらったから、みんな「感動もの」なんだろうと期待してたのか。

蓮實・これまでの北野さんの作品は抒情に流れるなら流れてもいいっていうところがあるじゃないですか。ところが今回はそれを全部切っている。抒情一切なし。

青山・ギャグでさえ、これ笑っていいものかとつい悩んでしまう。あの笑いにこだわる人が、そこさえもサービスしないのかと。黒沢さん嫉妬するかもしれませんよ。

黒沢・え、そこまで?やくざ映画に嫉妬するかなぁ。

青山・いや、やくざ映画と呼べるかどうかさえわからないんですから。

蓮實・背景はやくざ社会だけれど、やくざ映画に特有の情念なんてない、というのが黒沢的かも知れませんね。情念によって殺すのではない。組の論理でゲームのように殺さなきゃいけない。

青山・いまこの権力を取らなきゃ俺が殺されるとわかっていて殺されてしまう。つまり本気で権力が欲しいわけじゃない、という空回りした権謀術数だけが延々つづくわけです。そこだけ聞くと実に黒沢的でしょ。

黒沢・そうかなぁ、まあそういう映画は好きですけど「パワープレイ」(1978マーティン・バーグ)とかね。

蓮實・北野武監督も六十歳をこえておられるので、もうまわりの期待など気にせず勝手にやっているんだなと、しみじみ思います。

青山・そうだといいんですが、もう撮らないのかな、とも思いました。

蓮實・たしかに、どこか遺作めいていますものね。しかしあのただならぬ気配を感じられない奴は、映画なんか見るなってつくづく思います。私は二度見ましたが、二度目のほうがはるかに緊張しました。冒頭の自動車なんてすごいじゃないですか。

青山・あれはいきなりびっくりしましたね。そして閉幕もお見事ですよ。

(話題が変わって第九地区の話の後)

青山・〜最後傭兵のボスがエビに囲まれて食い殺されるのをロングで見せられるのも感動的でした。

蓮實・ロングといえば「アウトレイジ」のあのソフトボールのロングの俯瞰もよかった。いま、あそこでわざわざロングを撮ろうとする人あまりいないでしょう。地上に戻ったキャメラが囚人のビートたけしの死ぬところまでは見せませんが、何が起こったかわかる。最後に彼が自ら死に赴かず最もみっともない死に方を受け入れるというところに心を動かされました。ところでヤン・イクチュンの「息もできない」はご覧になりました?「アウトレイジ」とは正反対の暴力映画です。武さんの映画では暴力を振るうのはとりあえずの役割としてでしかない。それに対して、この韓国の新人監督の処女長編「息もできない」の暴力は実存の条件としてある。だったらその暴力は遠景に退き、中心は暴力を振るわない人たちの出会いであるべきだと思いました。そのほうが、暴力性が際立つはずですよね。ヤン・イクチュン自身の演じている凶暴な取り立て屋と女子高生の出会いとか、主人公がなんども歩いていく坂道の勾配なんかは素晴らしい。しかしどこか古さを感じました。武さんの暴力はいつ爆発するかわからないし、爆発する真の心理的な理由も持ってないのに対して、「息もできない」の場合はそうせざる得ないというところが単純に見えてしまう。
posted by シンジ at 17:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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