2009年09月01日

日本映画界に喧嘩を売る庵野秀明の超インディーズビジネス

エヴァが超大ヒットしてるのはめでたいんですが(9/1現在で35億円)
東浩紀・伊藤剛・竹熊健太郎らによるヱヴァ鼎談での竹熊氏の発言に映画興行ウォッチャーとしての血が騒ぐ。

「聞いた話だと、映画界はヱヴァに対して騒然としてるらしい。(ファンとはケンカしてないが)配給会社にはケンカ売ってるのかもしれない。庵野さんはマスコミに対しても厳しくて、画像を使用するだけでも、やりすぎと言っていいくらいの検閲をしてたりする。完結してから、本当は何をやっていたのかを訊きたいですね」ー竹熊健太郎


映画ファンであると同時に映画興行にも関心がある自分としては、今のヱヴァンゲリヲン新劇場版の興行配給形態がどうなっているのか興味がある。ぶっちゃけていえば自主製作自主配給という異例の形でのこれまた超異例の特大ヒットで庵野秀明率いるスタジオカラーの“銭”の取り分が気になる。


なぜスタジオカラーは自主製作自主配給という世界でもジョージ・ルーカスくらいしか成功していない異様な形での商売をはじめたのか?


映画を劇場、シネコン等で上映するには通常は大手配給会社と組む。東宝や松竹、東映などとである。そのなかでもとくに東宝は立地条件のいい劇場、シネコンを有しており松竹東映と比較して桁違いの利益を生み出している。2008年度の東宝の興行収入は739億円でこれは歴代最高記録である。ちなみに松竹は160億円、東映は119億円で東宝とはくらべものにならない。


各配給会社の年間興行収入を見ても、映画製作会社は(最近はTV局がほとんどだが)作品を大ヒットさせようと思うなら東宝と組むのが当たり前。だが東宝と組むのは莫大な利益を生む可能性もあるが製作者側にはリスクもある。それが東宝官僚とも揶揄される東宝の利益配分のえげつなさである。


「エーゲ海に捧ぐ」(1979)を撮った故池田満寿夫の証言

「驚いたのはトップオフという制度だった。全興行収入の中から、配給元の東宝が、宣伝その他の費用として半分を先に取っちゃうわけよ」

この映画の興行収入は20億円。その中から半分の10億がトップオフされ、残りの10億円の中から劇場が半分取る。劇場の取り分は別だというが、配給会社東宝の直営館だから、要するに東宝系に75%が持っていかれてしまうわけである。このほか全国120館で一斉封切りするためのフィルムプリント代120本分もすべてプロダクション持ちだ。

「最終的に、製作者側には2億円しか入ってこない。映画製作費はすべて含めて1億2千万円。残りの8千万円が儲け」(「世界が注目する日本映画の変容」より引用)



これはかなり昔の話だから今とは多少違っていると思うけど、全興行収入のうちトップオフでかなりの金額を取られるうえに配給手数料というのものがさらに加算される。興収20億円のうち配収10億円。配給手数料は10%から30%といわれているが東宝の場合強気の30%として3億円取られて残り7億円。さらにP&A費(Print and Advertising Expense)などで5億円トップオフされ、製作者側に残るのは2億円。映画の製作費が2億円以上かかっているなら完全な赤字である。興収20億円の大ヒットでも製作者には一銭も入らないどころか借金を抱えて夜逃げしなければならない。


映画で儲かるのは配給会社と劇場側だけ、映画製作者にはペンペン草も生えないという映画興行不毛地帯。庵野秀明ひきいるスタジオカラーはここに風穴を開けたかったのだ。


ヱヴァンゲリヲン新劇場版は東宝などの配給会社を通さないためスタジオカラー自身が劇場、シネコンオーナーと交渉して映画収入の取り分、歩合を決めていると思われる。


歩合というのは全興行収入のうちあらかじめ劇場側の取り分と配給側(スタジオカラー)の取り分のパーセンテージを決めるということで通常は劇場50%対配給50%の割合だが、ヱヴァンゲリヲン新劇場版に関してはスタジオカラーはかなり強気に劇場側と交渉出来る強みがある。というのも、


興行サイドが、こぞってエヴァを上映したがるのは、ショップに並べた関連商品の売上の凄まじさにある。今回の「破」でも、観客の約35%前後がパンフレットを購入し、約50%の観客が「入場料金以上の額のお買い物を、ショップでなさいます」と、某興行関係者は言う。あるシネコン・チェーンでは、6月の全サイトのショップ売上高のうち、なんと80%がエヴァ商品だったという。たった3日間上映しただけにも関わらず。池袋シネマサンシャインでは、5日間の関連商品の売り上げが、1000万円に達したそうだ。

「今年はヱヴァを上映出来たシネコンと、出来なかったシネコンでは、もの凄く成績に差が出たんですよ。『ポケットモンスター』とか『ハリー・ポッターと謎のプリンス』はシリーズものなんで、どの程度の成績か予想がつきます。でも、ヱヴァの場合は予想を上回ってました」ー斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」より引用


このように劇場側にとってはエヴァを上映できるかできないかで勝ち組になるか負け組になるかの分かれ目になる。よってスタジオカラーはかなり強気の交渉がシネコン、劇場側とできる。たとえば洋画の場合。


洋画の歩合は70%で、30%しか映画館主サイドの手もとには残らない。邦画は60%対40%。作品によっては弱いものは50対50(邦画)、60対40(洋画)というケースもありますけど、あくまで例外です。
もっとも洋画の70%というのも2週目までの話で、三週目に入ると65%、4週目以降は60%というケースが多い。もともとは洋画も60%だったんですが、それが70%になったのはUIP(アメリカの配給会社)のおかげなんです。あそこの「ジュラシック・パーク」とか「ロスト・ワールド」の大ヒット映画から歩合が変わってしまった。ー(「世界が注目する日本映画の変容」より引用)



このように大ヒットがあらかじめ予想できる映画に対しては歩合がかなり有利に設定できるようになっている。ヱヴァンゲリヲン新劇場版・破の異常ともいえる大ヒットと関連商品の売り上げは劇場、シネコン側からより有利な条件を引き出すことが容易になったといえるだろう。


大手配給会社にも広告代理店にも頼らない(広告もすべてカラーが担当している)自主製作自主配給自主広告というスタジオカラーのいまだかって誰もやったことのないやり方ー超インディーズ手法ーはいままで利益を独占してきた大手配給会社や大手広告代理店に喧嘩を売ったに等しい。だからこそ自分は庵野秀明を応援するしスタジオカラーの手法に興味がつきない。今後の問題はスタジオカラーがエヴァ後にエヴァ以外のヒット作が出せるかどうかだと思う。
posted by シンジ at 18:50| Comment(2) | TrackBack(1) | 映画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。初コメントです。
エヴァ破が単に面白いだけではなく、売り方の手法としても独特で関係者が驚いているというこのビジネスの詳細が分かりやすく書かれていて非常に勉強になりました(面白くてもビジネスで失敗した作品っていっぱいありそうなので)。
産経新聞に「映画業界、元気なのは東宝だけ 中小は「ヱヴァ」1本、倒産も多発 映画の昨年の総興行収入は前年比5.7%増、邦画は同1.3%増で過去最高記録を2年連続で更新した。ただ、好調なのは大手のみで、昨春から中小の映画配給会社の倒産が続出している。」などという記事が出たことから、いかにエヴァの手法がすごいかよく分かる。大手と中小の超格差の中、クロックワークス・カラーが一つだけ頑張っているということだから。
「製作委員会方式」を定着させたエヴァが再び映画になったら全部取っ払って「超インディーズ」で勝負する。単に作品が面白いだけではなく先を読んで勝負するすごさに、ビジネス本やビジネス雑誌を斜め読みする僕は別の側面でもますます庵野さんに惹かれています。長文になってしまって本当にすみません。
Posted by いちじく at 2010年05月28日 17:03
いちじくさんありがとうございます。お役に立てれば幸いです。
Posted by シンジ at 2010年05月30日 19:43
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雑記(カラー 2009年9月〜)
Excerpt: (09/09/01 18:50 シンジの“ほにゃらら”賛歌) 日本映画界に喧嘩を売る庵野秀明の超インディーズビジネス 大手配給会社や大手広告代理店に
Weblog: 「エヴァ板とガイナスレ用だよ」Blog
Tracked: 2009-09-01 22:47