緒形拳「俺が好きな日本の俳優」
池部良。
普段ブラッと会うときもね、いいズボンはいて靴履いて、カーディガンをこう、フワッと肩にかけて。あんな風に肩からカーディガンをかけて似合う人ってそうはいない、うん。ダンディ。
姿が良くって声が良くって。中でも「暁の脱走」っていう映画。それと「青い山脈」「現代人」「現代の欲望」。
鶴田浩二さんと演った「昭和残侠伝」シリーズのうちの二作。それなんかでも妙に池部さんていう雰囲気があって。どこか儚いヤクザっていうか。世の中を真っ当に生きられないんですよ、みたいなね。あの身幅が狭い着物がすごくよく似合うんだ。いいなぁと思うね。
森雅之。
何て言うかな・・・・森さんを観てると、男の“サンチ”を感じるんですよ。知と稚と痴。男になくてはならないサンチ。
そしてやはり「浮雲」ですよ。もちろん溝口健二や黒澤明の映画に出ても森さんはすごくチャーミングなんだ、「雨月物語」「羅生門」。でもあの「浮雲」一本だけで、森雅之という人が日本映画の中に厳然と存在してる。それでまた高峰秀子の良さね。役者にとって共演者というのは最も大事なもので、森さんもいいけど、それにもまして高峰さんがいい。二人がいてこそ成り立った名作ですよ。すごい映画だと思ったね。僕が思う日本映画の一番だ。
小林桂樹。
成瀬巳喜男っていう監督の映画に出た時の話を小林さんに聞いたことがあるんだけど、成瀬さんが「何もしないでね。あ、しない、しない。しないで、何も」って、結局、何も(演技を)させない(笑)。これは映画監督と俳優のエピソードとして凄い話だと思う。
小林さんて人は「光而不耀(こうじふよう)」。本当に光ってる人というのは“光ってる”と感じさせない。何てことを感じさせる人、小林さんは。
三人に共通してるのは“やりすぎない”こと。役者って巧くなるとついやりすぎるから、やりすぎないというのは難しい。三人とも品格があって風格がある。“上品・じょうぼん”ですよね。〜週刊文春2004年?号
男になくてはならないサンチか・・・知と稚と痴。知性と稚気。そして馬鹿になれること。それが緒形拳さんのいうサンチなのかな。